月刊アイソス 2001年9月号掲載インタビュー記事

 

審査にも価格破壊の波が到来か?

ISOで中小企業を強力にバックアップ

効率化を推し進め廉価な審査を実現

 

取材先  

ムーディー・インターナショナル・サーティフィケーション株式会社

 代表取締役 坂井喜好 氏

 

ISO9001、14001の審査機関及び審査員研修機関であるムーディー・インターナショナル・サーティフィケーション(以下MIC)は、中小企業から人気を集めているが、その秘密は「スピーディーに、わかりやすく、低価格で」というモットーに沿った審査にある。小売業や外食産業などでは、廉価かつ品質面でも他社と遜色がない、あるいは遥かに優れた商品を提供する仕組みを採り入れた組織が、大幅に売上を伸ばしている。ISO業界でも同様なことが起こるのだろうか。MIC代表取締役坂井喜好氏にISOの審査料金を中心に話を聞いた。

 

MICの概要について。

 

坂井 MICは、50カ国以上でシェル、エクソンモービル、ベクテル社といった石油メジャー、電力、建設会社を顧客としさまざまなプロジェクトに参加し、第二者監査、工場監査、現地検査、コンサルタント、工程管理、納期管理、技術指導、検査などの分野でワールドワイドな活動を展開する民間の第三者検査機関であるムーディー・インターナショナルを母体として設立されたISO9001、14001などの審査登録及び審査員研修機関です。ムーディー・インターナショナルは、エンジニアリング、技術関連サービスの支援をあらゆる産業界に提供してきました。この分野における1世紀近くにも及ぶ経験、ノウハウをそそぎ込んでISOに的を絞って新たに設立したのが我々MICということです。

 

MICの認証審査の件数が伸びている点について。

 

坂井 まず最初に私どものビジョン (情熱)とミッション(使命)からお話しさせてください。私どものビジョンは「ムーディーは日本の小規模企業に付加価値をもたらすリーダーになることをめざす」ことです。さらにミッションとして「ムーディーは少しでも早く多くの小規模企業を支援したい。ISOマネジメントシステムの認証を通して我々が継続的改善を促す触媒として役立ち、より大きな価値を付けていただきたい。その付加価値のある審査をさせて頂くことによって相互依存の関係を築き、相乗効果を生み出す」。

 これが我々、ムーディーが目指す原則であり土台となるものです。

 さて中小企業の方々からご支持をいただいている理由としては、審査料金を常に小規模企業の立場を考えて抑えている点が大いに関係していると思います。ですが決して金額だけではなく、提供しているサービスや姿勢、つまり審査の質自体が高く評価されていると自信をもっています。私どもは顧客を常にビジネスパートナーとして「審査をさせていただく」という姿勢で誠心誠意、付加価値のあるサービス、将来利益の拡大につながる改善の機会を提供する、この点を徹底しミッションに基づいて行動しております。もちろん全国の多くの同じビジョンを持つコンサルタントの方々や、既に認証を取得されたお客さまからのご紹介などのきっかけもあって、件数が伸びてきているという事実があり大変有難く心より感謝しております。

 

中小企業に負担にならないISOを

 

―審査料金の水準について。

 

坂井 MICは審査登録機関として世界20カ国以上で活動していますが、物価水準などを考慮しても日本の審査料金はあまりにも高すぎると思います。また、こうした他との比較で高い安いということだけでなく顧客はこう考えるはずです。つまり、実際に払った金額に見合った効果が得られたか、そうした審査を受けることができたのか、果たして高い買い物ではなかったか、という具合です。

 

―その答えは受審企業の方々が一番よく知っているわけですね。

 

坂井 はい、今更改めて言うまでも無く、今日の日本経済を支えてきたのは中小企業、零細企業であり、これまで様々な外圧に耐え無駄を省き切磋琢磨を繰り返し、血の滲むような努力をなさってこられた。我々はそのことを痛いほど知っています。そのようなところから一部だとは思いますが、やりたい放題の、たかりのごとく料金をむしり取っているISO関連の事業もあるという現状については大変疑問を持っています。2の仕事しかしていないのに、10の請求をしているような、まさにISOのバブルに乗じているような動きがあるとしたら、自らの首を締めているようなものです。現在の審査に関わる料金の水準は、中小企業にとっては相当な負担になっているのは間違いありません。もちろん金額に見合った効果につながる審査やコンサルテイングサービスであればいいのですが・・・

 我々が1世紀近くも事業をやってこられたのもこの小規模企業の方々のお陰であって、今、それに対して何ができるかといえば、「ご恩返しをする」という姿勢で長期的な関係で相互得に基づいてよい結果を求めなければならないと思い、料金を抑えていこうと考えているわけです。 

 また現在、国内には50以上の審査登録機関があり、なかには財団法人や、業界団体などから補助や支援を受けるなど他より経営的な面や、あるいは表面には出ない陰の影響力で大変優位な立場にあるところがあります。こうした審査登録機関こそ料金をもっと引き下げるべきで、極端な話、そのような優位な立場にある登録機関は中小、零細企業の審査は無料にする、今まさにこんな役割が求められていると思います。

 

審査の効率化と質との問題

 

MICの審査料金が廉価の理由について。

 

坂井 審査の中身と絡んできますが、例えばお客さまのオプションとしてある予備審査について私どもは当然のこととして1回のみとさせて頂いております。これを2回も3回も実施する審査機関もあると聞いております。例えばまず予備審査を行って懸案事項があった場合、「これでは本審査は無理なのでもう一度予備審査をやったほうがいい」、また「この点を手直ししたかということで本審査の前に、確認の意味で今一度」と再度の予備審査を挟む、という具合らしいです。

 受審側の置かれた立場を考えてみれば、審査登録機関から再三予備審査を要求するのは非常にアンフェアーなことで、詐欺のようなものであると思います。こうして回数が増えた分は、当初の相見積もりを取った時点では見えない一種の「からくり」です。受審側としてみれば安いと思って契約したのに、「見積もりより大分高いのでは」と感じるわけです。これは大変お客様に失礼な話だと思います。

 

―結果として審査料金がかさんでしまうわけですね。

 

坂井 もちろん受審側の希望として、本審査の前に何度も確認を受けて万全な体制で臨みたいとのことであればいいのですが。予備審査現場において、受審側のその時点での実状をしっかり把握し、できるだけ多くの事実を発見し、何が足りなくて、要求項目に対して何が重大な懸案事項なのか、具体的にどのような取り組みの事例が考えられるか、こうしたことを素早く理解し指摘する、いかに与えられた時間とコストで効率的な予備審査を提供し本審査のリスクを回避するか、この点が重要になってくると思います。

 

―金額だけでなく審査の質にもつながる問題ですね。

 

坂井 はい、MICでは組織の過度の肥大化を避け、固定費などの増加を極力抑えるようにしています。またJAB(日本適合性認定協会)の認定をとっていないので、この分の認定料が発生しないことも金額を抑えることにつながっています。JAB認定についてはよく質問をうけますが、MICはISO9001、14001の発祥の地である英国の認定機関であるUKASなど10以上の国際的に認知された認定機関から認定を受けており、国際的にみて私どもの認定証自体は少しも劣るものではなく、逆に10以上の国際的に認可された弊社の認証はインターナショナルな受審企業の仕組みが世界的に一流であることを取引先に対して証明する第1級の保証書として認識されています。世界各国における一万社近いMICの審査実績がその証だと見ていただきたいですね。 

 過去に日本はJABの認定でないといけないとか、大手はUKASとJAB両方を持っていないといけないだとか、いろいろな世論を操作するようなプロパガンダがでましたがISOの認定書はどこの国の物で取ろうが、全く同じ価値であるということを、改めて申し上げたいと思います。ISOに国境があってはならないし、各国特有の判断基準があってもならない、それら各国まちまちにあった垣根を取り払って同じ価値観で“規格化し共有しよう”と言う国際的な流れにもかかわらず、また日本流の垣根を作って鎖国状態にしようと、そんなわけのわからない逆行した兆しがありましたが、日本の国際的経済競争力の維持のためにも、こんな考えが再び生まれてきてはならないと思います。

 言い換えると、国際的な感覚がないとまともな監査ができなくなるばかりか、本流からはずれた、ゆがんだものにいきついてしまいます。我々が正しいと思ってはしごを登っているはずであったが登り終わって、初めてそのはしごが間違った壁に掛かっていたと気づいていたのでは、取り返しがつかないばかりか、日本の国益にとっても大変危険なことです。

 

利益につながる審査

 

MICの審査について。

 

坂井 MICでは、他の審査登録機関では味わえないようなさらなる感動と大きな付加価値を得てもらいたい。そして我々の審査とは「審査させて頂いている」という立場を十分に理解して受審側にとって為になるもの、いうなれば利益につながる改善の余地を探させて頂くという気持ちでいます。これもミッションに基づく行動です。

 審査機関だけでなくコンサルタントの方々にもいえるのですが、確かに認証は大切ですがそれだけを捉えてどうのこうのというのではなく、いかに顧客に見合った仕組みを運転していただくか、その仕組みからいかにアクション(改善)を出力してもらうか、そのことで利益につながるように体質改善して頂くか、こうした観点で支援していくというスタンスが大切なはずです。

 確かにISOは、欧米人が作った仕組みで日本人にとって馴染みが薄いのは事実です。仕組みを作り運営する組織は無論、それを手伝うコンサルタントの方々、さらにその仕組みを審査すること自体、我々日本人には難しいと思いますしどうしても考え方に馴染まない側面もあると思います。こうした事情もあって、規格の解釈や実際の取り組みにおいて、日本独特に加工し過ぎてしまい、権益を持ちたい多くの人がそれをさらに助長しあまりに強くなり、本来の目的がねじ曲げられているようにも見える面が出てきているかもしれません。

 

―中小企業を巡る問題について。

 

坂井 はい、大企業などと同様に百科事典のような厚さのマニュアルや手順書と大量の紙を出力されているところを見かけますが、結局は揃えるだけで息切れして、現実の運用を通して効果を産むまでに至っていない、こんなことが相当あちこちで発生しているかもしれません。1、2年後には必ず結果が出ると思います。もちろん、こうしたケースなどは受審側の企業にも責任の一端があると思います。やはり受審側も自分たちの組織の規模、体力にあった手作りのものとして取り組むべきです。

 ただ、複雑な文書体系については受審企業、審査登録機関、コンサルタントの方々、と三者三様の責任があると思います。とりわけコンサルタントの方々の社会的責任が大きいと見ています。一部のケースとして、自己保身ということで、いわば審査を無難にパスするために過剰なまでの文書体系を指導して、既に十分に成熟している分野に対しても工数をかけすぎているケースもかなりあると見受けられます。

 もちろんそれで仕組みが起動して改善が出力され現場がよくなっていればいいのですが、文書管理が非常に煩雑になったり、また実作業との乖離などむしろ弊害の方がはるかに大きくなってしまっている場面も見受けられます。これでは誰も操縦できないジャンボジェット機のコックピットを装着されてしまったようなもので、本来は軽自動車程度の仕組みで十分かもしれないにもかかわらず、こんなことが今起きていることはご存じの通りです。

 さらに審査登録機関もまた審査という名を借りた顕微鏡での寸法、外観検査をしているような物で、さらにその文書の肥大化を助長させている、つまり発見された問題をそれぞれ独立した点として捉え問題そのものを分析して、何と結びついているのか、何に影響をおよぼしているかと全体像を見ての総合的な判断が足りない部分も在るのかもしれません。もちろん我々の反省も込めて言っておりますが。

 我々はプロであればあるほどより単純化を目指すべきと理解しています。素人ほどより複雑にしたがるきらいがあると考えます。簡略化をはかることでスピードが増し、効率化に結びつき、コスト削減が可能になり、効果が出てくる、しいてはそれが審査料金を抑えることにつながっていくと考えます。

 

 

費用対効果の確認を

 

―本審査後に他の審査機関からMICに変更するケースが増えていると聞いていますが。

 

坂井 はい、これは本当に有難いお話です。無事、目標の本審査が終わり登録が済んだ後も、維持審査や更新審査があるので審査機関とは切っても切れない関係が続くわけです。ですがお金を払うのは顧客側であり、顧客は審査登録機関をどの時点でも自由に変更し選ぶ権利があるわけですから、本審査が済んだ後、一度は導入効果を含めいろいろ検討してみることをお奨めします。なぜISOなのか、いったいどんな効果が審査を受けてでたのか、本当に審査実務に見合った料金なのか、この点を再確認することで、自分達の目的にあった審査機関を、入札し選び直した方がよいという答えになるかもしれません。目標のなかにはそれを達成すればしたで、社内の大勢の方々に迷惑になる望ましくない結果が生まれる目標もあり、ISOを取って目標を達成しても他の分野の質が低下してしまったら、それこそその会社の大きな経営上のリスクに繋がるかもしれません。もちろんこのことも我々の戒めとして言っております。

 

―これからISOに取り組む中小企業にアドバイスを。

 

坂井 現在、戦後最悪の不景気とも言われていますが、こうした状況で生き残っておられること自体、組織の仕組みという点では、既にISOの要求に適合され合格の要素を十分に持ち合わせているのです。ただ一つ足りない点は、日頃やっておられることをうまく分析調査し表現する力、つまり我々のような第三者にデモストレーションする能力、これだけなのです。ISOに取り組むにあたりこの辺の技法を憶えていただければ、ISOはこんなに簡単なのかということになると思います。

 

MICの今後の課題、抱負について。

 

坂井 日本では高い物であればそれなりの価値があろうという考えが一般的でしたが、ISOの世界では全く通用しないと思います。審査登録機関にも安くかつ品質的に優れているサービスを提供していくための企業努力、合理化は欠かせない状況になってきていると思います。

 一方、受審企業、審査登録機関、コンサルタントの三者間において次に申し上げるような、顧客不在とも言うべき、コンサルタントのための審査、審査機関の為のコンサルタントといった構図が、一部で浮き彫りなって問題になっている場合もあります。例えば、受審企業は、認証取得がスムーズにいかなかったり維持できなくなるとコンサルタントの方々に対し不満を抱くでしょうし、コンサルタントの方々も自分を正当化するために審査や制度の問題だと不満をもたれるかもしれませんし、当然、我々の反省も含めて審査機関側にも多くの改善の余地があると思います。

 ですが、MICのISOは長期的な相互の得となるよう相手の立場や状況を理解する努力をし、我々自らがその流れを変える責任を引き受け、お互いの能力を高め進化させることに力を注いで行こうと考えています。せっかく我々をビジネスパートナーとして選んでいただいたのですから、「これが本当のISOだったのか、これなら同じ業界の人に紹介してあげたい」、こんな言葉をかけ続けてもらえる付加価値のあるサービスを提供したいと考えています。

 国益のためにも、日本経済を支えている小規模企業をバックアップする意味でも、レベルの高い信頼される審査を広めていき、長続きする協力的な相互依存の関係を築き相乗効果を生み出すことは、まさに我々に課せられた使命だと考えています。▼

(取材日:2001.5.14)